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2010年12月 1日 (水)

韓国併合条約百年に想う 

東海林  勤(しょうじ つとむ/日韓キリスト教関係史資料Ⅲ編集会座長))

 富坂だより23号の「日韓キリスト教関係史資料Ⅲ」の井田主事報告に続いて、私は「韓国併合百年」との関連で資料Ⅲ企画の意味を考えてみたい。 日韓併合条約は1910年8月29日に天皇睦仁の「詔書」によって公布された。その日から日本は韓国(当時の国号は大韓帝国。朝鮮半島全体を含む)を合併し、植民地にした。そこで今年は学会、市民運動などが、条約と植民地化の問題を問い直す催しが続いた。私もその一つ、「韓国併合百年-日韓知識人共同声明」(以下「声明」)に日本側発起人の一人として加わり、武田理事はじめ10余人の富坂センター関係者も署名された。 

 「声明」は、日韓双方の第一線の歴史学者が共同で作成した。「声明」は日本政府が19世紀後半に艦隊を送って朝鮮を脅迫・攻撃し、不平等条約を押しつけ、日清戦争、日露戦争で朝鮮占領を強化し、議定書、協約を重ねて外交権、内政監督権を奪い、皇帝の抵抗も義兵運動も軍隊、憲兵、警察の力で圧殺し、ついに韓国を併合したのだから、併合は不義不正の行為であったと断じる。そして「声明」は、併合条約の前文では日本と韓国の皇帝が両国の幸福と東洋の平和のためには韓国を日本に併合することが最上の策だと確信したと言い、第一条に韓国皇帝が一切の統治権を完全永久に日本皇帝に譲与し、第二条に日本皇帝はこれを受諾する、というのは全くいつわりであり、併合と同様に条約も不義不当であると言明する。 

 その上で「声明」は併合条約の解釈を論じる。1965年の日韓基本条約第二条の「すでに(already) 無効」を日本側は、条約は対等の立場で結んだのだから有効だが48年大韓民国成立の時に「もはや無効」になった、と解釈し、韓国側は暴力により強制されたのだから「当初からすでに無効」と解釈した。今日確定した歴史理解に従えば、日本政府は従来の解釈を維持できないのだから、韓国政府の解釈を受け入れるべきである…。 

 以上、「声明」は日本側韓国側50 人ずつ計千人の署名をもって、日本政府に決断を促したのである。 

 8月10日の菅首相談話は,併合条約が韓国の人々の「意に反して」強制的に結ばれたことを認め、1995年の村山首相談話をそのまま受け継いで「反省とお詫びの気持ち」を表明した。しかし「謝罪」は一言もなく、午後の記者会見では「65年の政府の立場に何の変更も加えません」と確言した。 

併合条約と併合を、不義不正、不当と認めるか否かは、日韓関係を道義的にも法的にも正すか否かの要となる問いである。にもかかわらず、政府は併合条約百年という機会にも、ついに正しい立場に立つことができなかった。 

 65年の日本政府は、植民地支配の罪責を認めず、謝罪も補償もしない、経済協力金を出して補償は一切済んだことにする、という立場であった。これは金銭上の問題であるが、より深くいえば人格に関わる問題である。つまり、依然として韓国の人々を道具視し、相手が侵し得ぬ人格、尊厳なる人間として他者であることを、認めることができなかったのである。 

今日も日本の政治家は他者感覚が希薄で人間に対する畏れを知らず、自分自身としても道義に立てない人たちがいるようである。そして同じように植民地支配の罪過を見過ごしてきた市民一人一人も、共犯者として加害責任を免れない。 

 私たちには、償いようもない歴史的罪責を見つめて心に刻む力は、自分の内にはない。しかし私たちがそうする意思を表せば、韓国人、朝鮮人、在日の人々は私たちに心を開き、共に歩むよう、呼びかけてくれる。そこから私たちは悔い改めにもとづく新しい歩み、正義と和解のために連帯する勇気を与えられ、体制順応、現状維持から国籍をこえた協力へと踏み出すことができる。 

 日韓キリスト教関係史を探る作業は、日本人キリスト者の過去の大きな誤りを直視し、そのキリスト者に韓国および在日のキリスト者が連帯を呼びかけ励ましてくれた幸いを再確認する作業である。とくに70~80年代の民主化運動と日本の連帯については、心を熱くされる。その頃は私たちの連帯は韓国キリスト者との信頼に基づいて情報を運び出し、公表することを主としたので、キリスト者の範囲を超えて、国内でも国際的にも市民、政府、マスコミに広がり、世界的な熱気を巻き起こした。韓国の民衆とキリスト者の民主・人権の斗いが、感動と連帯を呼び起こしたのである。その頃在日の人権運動も大きく展開した。 

 資料Ⅲが、私たち自身と市民と政府の新たな悔い改めと再出発の契機になるようにと、願わずにはいられない。  

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